File.03 / 1975.夏 『エルモーション・ロック』

サンハウスを3回目に観たのは75年のエルモーション・ロック大会におけるゲスト出演だった。当時、九州地区の優秀なアマチュアバンドが腕を競うこの大会からは、その後の大会で、モッズ、ロッカーズ、人間クラブetc.も参加したことがあり、有名になるための登竜門的な大会だった。

75年の大会は、夏頃、福岡市中央区の九電記念体育館で行われた。かなり広い会場で一階フロアにはパイプイスがたくさん置いてあったが、自分は一番後方の2階席から観ていた。アマチュアバンドがたくさん出てきたが、どれもこれも全然つまらん演奏ばかりで、退屈しぱっなしだった。ギターを「きゅ〜ん」ってかき鳴らして、自己満足したり、曲の途中で受けないMCをしたり...。「やっぱり、日本のロックバンドって全然面白くない。」って思っていた。

ようやくアマチュアバンドの演奏が終了して、ゲストの番になった。この日は、サンハウスの他にサディスティック・ミカバンドも名を連ねていた。「タイムマシーンにお願い」がヒットしてメジャーになっていたバンドだ。さて、「どっちが最初かな?」って思っていたら、サンハウスが先だっていう話が聞こえてきた。これまで、てんでバラバラだった1階フロアの観客が前の方にどっと移動し始めた。

自分は6/25に発売された「有頂天」を聴いて、少しずつファンになりかけていたところだった。メンバーの登場を胸を高らませて待っていた。そして、ついに、うす暗いステージにメンバーが登場した。「みんな背が高くてかっこいい!」と思いつつも、「あれっ、菊が登場していないではないか」...と思った瞬間、4人による演奏が始まった。なんか聴いたことがない曲だ...結構、長い曲だった。そうそう、これがイントロダクションだった。この頃のサンハウスはイントロダクションを一曲めにやっていたのだ。ルーリードの「何とかっていう曲」をヒントにしたらしいけど。

イントロダクションが終わりかけて、ステージの裾から菊が登場してきた。上下、真っ白のスーツで、化粧バリバリで!いきなり「俺のからだは黒くて長い...」ってとても野太い声で唄いだした。これまでのアマチュアバンドは歌がぜんぜん聞こえなかったが、菊の声は、歌詞がはっきりと聴きとれた。そして、間奏で「マイクごしごし」を初めて観て、圧倒された。

バンド全体のズシリと重たいロックン・ロールサウンド、ヴギのリズムにじっとしていられない気分になった。前方に押し寄せた観客は、ツイストの嵐、嵐、嵐!鮎川のギターが凄いとは、まだ、自分にはわからなかったが、とにかく菊の動きに釘付けになってしまっていた。それほど動き回るわけではないけど、観客を射るような目つき、手のしぐさ、腰つき...。MCは「はいどうも」の他は全くなく、「なんて不良っぽいんだろう」って完璧にKOされた。「ローリング・ストーンズみたいなバンドがいるよ」って教えてくれた中学3年の時の女のクラスメイトの言葉がわかった気分だった。「すごい。レコードで聴いていた感じの何十倍もの迫力で迫ってくるサンハウスのライブ!見た目も超かっこよくて...」この日のライブに受けた衝撃は計り知れず、それが今に至っても脳裏に焼き付いている。

(おまけ)
ライブが終わった後、2階席を左の方からぐるっと回って前の方に行ったら、ステージの脇に出た。するとそこには、次の出番を待っているサディスティック・ミカバンド」のミカが待機していた。やや緊張した面持ちで...。そして、今度は、着替えを済ませた菊が楽屋から出てきた。ミカと菊の遭遇だ!何か喋るのかと思ったら、菊はミカを射るような目で一瞥すると去っていった。(怖〜)

(続く)

文:なまず
参考:Captain YAMPO 著 『菊の花道』
<敬称略、文責:hakata-rock.net編集部>